ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-225
*佐々木那由太,渡辺 守(筑波大・院・生命環境)
動物の雌は、産卵時期を調節したり、異なる雄由来の精子を別の場所に保存して使い分けたりすることで、自らの子の父性を特定の交尾相手に偏らせる場合がある。この現象は雌による「密かな配偶者選択」と呼ばれるが、発見例が少なく、あまり注目されてこなかった。鱗翅目では、2頭目の雄と交尾した直後の雌の受精嚢から、最初に交尾した雄の精子が消失してしまう現象がナミアゲハなどで知られており、雌は受精嚢内の精子を自ら入れ替えることで「密かな配偶者選択」を行なっている可能性が高いと考えられる。そこで、ナミアゲハのP2値(雌が2頭の雄と交尾した時、産下卵が2頭目の雄の精子で受精されている割合)を測定し、「密かな配偶者選択」の有無と、雌の配偶者選好性を調べた。室内飼育し羽化させた雌を、羽化翌日とその3日後に、正常な雄またはγ線で不妊化した雄と、それぞれハンドペアリングで交尾させた。この時のP2値は、2回続けて正常雄と交尾した雌や、2回続けて不妊雄と交尾した雌の産下卵の孵化率で補正した。正常雄と2回交尾した雌の卵の孵化率は8割程度、不妊雄と2回交尾した雌の卵の孵化率は2割程度であった。後者の卵の大半は発生が途中で停止しており、不妊化された精子も受精に用いられる事が分かった。正常雄と不妊雄の両方と交尾した雌の産下卵は、多くが孵化するか、多くが孵化しないかのどちらかであり、P2値は二峰分布を示した。産下卵のほとんどは、交尾の順番と関係なく、交尾相手のどちらか片方の精子によって独占的に受精されていたのである。独占的に受精を行なえた精子を注入した雄の多くは、大きな精包を雌に注入していた個体であった。これらの結果から本種における雌の交尾後の配偶者選択について考察した。