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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-227

水欠乏によるマメゾウムシのメスの再交尾促進とその適応的意義

原野智広(九大院・理・生態科学)


多くの昆虫のメスでは、1回の交尾で十分な精子を受け取るにも関わらず、多回交尾による産卵数の増加が見られる。このことはオスから供給される精液中には栄養分が含まれると解釈されることが多い。しかし、外界から水分を摂取困難な場合、とりわけオスがメスに多量の精液を供給する昆虫では、精液はメスにとって貴重な水分供給源になりうる。貯蔵豆を幼虫期のホストとして利用するヨツモンマメゾウムシやアズキゾウムシは、成虫期には水分を摂取しなくても繁殖可能である。しかし、メス成虫は水分を摂取すると長生きし、多くの卵を産出できる。ヨツモンマメゾウムシのメスは、1回の交尾でオスの体重の10%にも相当する精液を受け取り、多回交尾を行って追加の精液を受け取ると産卵数が増加する。本種では水分を摂取させなかったメスは頻繁に交尾するという観察結果から、精液からの水分補給がメスの多回交尾の適応的意義の1つと考えられている。

それに対して、アズキゾウムシのメスが交尾の際に受け取る射精液はオスの体重の2%に満たない。そのため、精液からの水分補給はあまり期待できない。しかし、ヨツモンマメゾウムシと同様に、アズキゾウムシでも1回交尾後に水分を摂取させなかったメスに比べて、水分を摂取させたメスは再交尾しやすいという観察結果が得られた。そこで、メスが水分を摂取できないときに、追加の精液の供給が産卵数に与える効果を検証した。1回交尾を終えたメスの産卵数は、追加の交尾によって増加しなかった。したがって、アズキゾウムシでは、メスの多回交尾の適応的意義が精液からの水分補給であるという仮説は支持されなかった。水分欠乏がアズキゾウムシのメスの再交尾を促進したことは、他の説明を必要とし、メスの多回交尾の適応的意義が水分補給を示す根拠とはならない事例であろう。


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