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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-232

メコン河淡水魚類の耳石解析による回遊パタ-ン解明

*福島路生,野原精一(国環研),Tuantong Jutagate, Chaiwut Grudpan, Pisit Phomikong (UBU)


インドシナ半島の国際河川メコン川に広く生息し、流域住民の食料資源として貴重な淡水魚Siamese mud carp (Henicorhynchus siamensis)の耳石微量元素分析による回遊生態の解明を試みた。本種は体長15cmほどの小型のコイ科魚類であるが、メコン川では漁獲量は最大でカンボジア通貨リエルの語源にもなっている。本種は支流と本流を回遊する生活史を送ることが地元漁師を通じて分かっているが、地域個体群ごとの詳細な回遊ル-ト等はまったく分かっていない。演者らはラオス、タイ、カンボジアのメコン川本流および支流から本種の耳石を約160個体分を収集し、レ-ザ-アブレ-ションICP質量分析計を用いて計9種類の元素同位体を、耳石の核から外縁にかけて、つまり回遊の時間軸に沿って半定量した(これをプロファイルと呼ぶ)。各元素のプロファイルは、同一地点で採集された個体間では酷似し、河川間(支流間)では異なった形状を示した。しかし多くのものが、U字型などの左右対称のプロファイルを示した。つまり本種は群れをなして回遊行動をとること、支流ごとにいくつか異なる回遊経路が存在すること、また繁殖のために、産卵河川に母川回帰していることが示唆された。耳石表面のストロンチウムや亜鉛などは、魚が採集された地点の河川水の各々の濃度を反映するためか有意な正の相関を示した。しかし、マグネシウムは反対に有意な負の相関が耳石と河川水の間に見られた。メコン川の各支流では複数の元素同位体濃度に有意な差があり、耳石中の元素プロファイルを解読することで、個体ごとにどの支流を回遊してきたかを理解できる可能性が示された。メコン川で急速に進められているダム開発計画と照らし合わせてこれらの研究結果を議論する。


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