ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-255
黒田高光(東農大院生物),菊池文一,小川裕子(多摩動物公園),河原淳(霧多布湿原C),下井岳,橋詰良一,亀山祐一(東農大生物)
演者らはオオアシトガリネズミの実験動物化を最終的な目的として、昨年から同種の生態・特性調査を開始した。しかし、同種の生体は外貌による性判別が難しい上に、保定による観察が未馴化の個体に多大なストレスを与える可能性もある。そこで本研究は、オオアシトガリネズミの体毛を材料としたPCRによる性判別法について検討した。
体毛による性判別に先立ち、解剖して生殖腺で性別を確認した個体から肝臓を採取し、肝臓のゲノムDNAで性判別を行った。雄特異的プライマ-はヨ-ロッパトガリネズミで雄特異的産物の検出が報告されているDBY8(Hellborg and Ellegren 2003)、雌雄共通プライマ-はスンクス(ジャコウネズミ)におけるaquaporin-3のcDNA配列からデザインしたAQP3を用いた。その結果、DBY8では雄、AQP3では雌雄両者において明瞭な1本バンドのPCR産物が検出され、それらによる性判別は解剖で確認した性別と一致した。DBY8とAQP3によるPCR産物をシ-ケンスしたところ、それぞれのプライマ-はオオアシトガリネズミでも標的とする遺伝子を増幅したと推測された。次いで体毛に由来するゲノムDNAで性判別を行ったところ、解剖で確認した性別、肝臓由来のゲノムDNAによる性判別の結果と一致した。
以上より、生体から反復して簡便に採取できる体毛を材料として、PCRによるオオアシトガリネズミの性判別法を開発した。本法は生態調査で捕獲した後に放獣する個体、動物園等における展示個体の性判別にも利用可能と思われる。