ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-261
*遠藤真太郎(信州大院・総工), 市野隆雄(信州大・理)
アリは強力な捕食者であり地上の生態系に強い影響を与えている. 一方でアリと積極的に関わりを持つ生物が多くの分類群から知られており,これらは好蟻性生物と呼ばれている.アリは化学認識によって厳密に巣仲間を識別する.このためアリのコロニ-は侵入者から強固に守られているが,アリによる防衛をかいくぐることができれば,アリのテリトリ-内は好蟻性生物にとって安全な生息地となりうる.好蟻性のハネカクシやチョウなどではアリの化学認識をあざむく「化学擬態」によってアリのコロニ-に入り込み,資源や防衛サ-ビスを搾取していることが知られている.しかし,アリと共生関係を持つことで知られるアブラムシでは,アリへの報酬である甘露をめぐる相互作用にばかり注目が集まり,化学擬態はほとんど研究されていない.アリは,時に共生するアブラムシも捕食することが報告されている.このため,アブラムシもアリによる捕食を回避するために化学擬態をしている可能性がある.
本研究では,クサアリ亜属のアリに絶対依存した生活史を持つヤノクチナガオオアブラムシを材料に用いた.クサアリ亜属では,体表の炭化水素混合物(CHC)の違いによって巣仲間を認識していることから,本研究ではヤノクチナガオオアブラムシと3種の随伴アリのCHCを分析・比較した.その結果,アブラムシのCHC組成は随伴アリ種ごとに異なり,それぞれの随伴アリ種に似た組成を持っていた.また,アブラムシのCHC組成はアリを排除して飼育しても変化しなかったことから,アブラムシはこのCHC組成をアリとの接触によって獲得するのではなく,自ら生合成していると考えられる.