ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-269
*渡辺洋一,戸丸信弘(名大・院・生命農)
近年、経済発展に伴う開発の増加など様々な理由により多くの種・集団の絶滅が起こっている。種の絶滅防ぐために、絶滅危惧種の遺伝的変異を明らかにして保全活動へ生かそうとする研究は多いが、事例研究となることが多い。一般に、絶滅危惧種は遺伝的多様性が低下していると言われているが、少数の比較研究では、近縁な普通種と比較すると希少種で多様性の低下が認められない例も存在する。ただし、これらの研究は、多型性の低いアロザイムなどを用いた研究であり、マイクロサテライトなど高い多型性をもつ遺伝マ-カ-を用いた解析を行い、希少種で遺伝的多様性が低下しているのかを明らかにする必要がある。そこで、絶滅危惧種を多く含むグル-プであるツツジ科ツツジ属ミツバツツジ節の普通種であるオンツツジ(16集団)と絶滅危惧種であるジングウツツジ(VU, 9集団)とアマギツツジ(EN, 6集団)を材料として、マイクロサテライト11遺伝子座を用いて遺伝解析を行い、遺伝的多様性と遺伝的構造を比較した。
その結果、集団内の遺伝的多様性(アレリックリッチネス, ヘテロ接合度)は普通種のオンツツジで最も高くなったが(8.438, 0.866)、アマギツツジ(5.301, 0.667)より絶滅リスクの低いジングウツツジ(4.881, 0.615)で低かった。遺伝的分化(G'ST)は、低い集団内の遺伝的多様性を示したジングウツツジがオンツツジと同程度に高く(ジングウツツジ, 0.53; オンツツジ, 0.47)、分布域の狭いアマギツツジは低かった(アマギツツジ, 0.15)。遺伝的構造では、ジングウツツジが明瞭な構造を示し、アマギツツジは単純な構造を示した。現在、ジングウツツジは、アマギツツジより個体数が多いが、分布が蛇紋岩地に強く制限されており、そのためにボトルネックなどによる強い遺伝的構造化を経験したと考えられる。