ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-276
*藪原佑樹,赤坂卓美,三島啓雄,山浦悠一,中村太士
種の分布モデルは、保全計画を立てる際によく用いられるようになってきた。分布モデルの構築には、適切なスケ-ルを設定することが重要であるといわれる。従来の研究では、単一のスケ-ルで分布と環境との対応が検討されてきた。
しかしながら、猛禽類をはじめとした大型で移動能力が高い野生動物の多くは、複数のスケ-ルで生息地選択を行なっている、つまり、階層的な生息地選択を行っていることが知られている。すなわち、地域スケ-ルで採餌や営巣に適した環境を選択し、その中で地形や林相といった局所的な要因に基づいて、定着する場所を決定していると考えられる。
したがって、種の分布は複数のスケ-ルの環境要因で決定されており、分布モデル構築の際に複数のスケ-ルの環境要因を考慮することは、モデルの説明力や推定精度を向上させ、結果として効果的な保全策につながると考えられる。
そこで本研究では、アンブレラ種として用いられることが多いクマタカ(Spizaetus nipalensis)を対象として、Maximum Entropy Modeling (Maxent)を用いて、日高、十勝、釧路地域における分布モデルを構築した。使用したデ-タは、クマタカの営巣位置のデ-タと、地形と植生に関する環境指標(平均標高、急傾斜地割合、起伏量、森林面積)である。局所環境と周辺環境という、二つの異なるスケ-ルで分布モデルを構築した。また、二つのモデルを比較することで、クマタカの生息地選択がスケ-ルによって異なるのか、すなわち生息地選択に階層性が存在するかを調べた。そして、異なるスケ-ル下で構築された分布モデルによって、推定された生息適地がどのように異なるかを示した。
これらの結果に基づき、複数のスケ-ルから保全を考えていくことの重要性に関して議論する。