ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-281
*大野愛子(熊本県立大),安田雅俊(森林総研九州),井上昭夫(熊本県立大)
ヤマネGlirulus japonicus(国の天然記念物,環境省レッドリスト:準絶滅危惧)は,齧歯目ヤマネ科の1属1種の日本固有種で,本州,四国,九州に分布し,冬眠する習性をもつ。本種の冬眠の開始には,気温の低下,食物資源の欠乏,脂肪の蓄積量,食物の質の変化等の要因が関係していると考えられている。本州個体群では,既存の研究により,冬眠の開始と終了の閾値は平均気温8.8℃と推定されているが,九州個体群では,冬眠に関する研究はこれまでほとんど行われていない。そこで本研究では,自動撮影カメラ法を適用し,九州個体群の冬眠時期を推定した。
調査は,2009年と2010年の秋から冬(10月-1月),熊本県北部の阿蘇外輪山に位置する菊池渓谷の天然生針広混交林(標高550-800 m)において行った。複数の樹洞あるいは樹上2-4 mに仕掛けた巣箱に,デジタルタイプの自動撮影カメラ(SensorCamera Fieldnoteシリ-ズ, 麻里府商事)を向け,活動中のヤマネを多地点で撮影することで活動期間を把握し,冬眠と温度環境との関係について検討した。気温は小型温度ロガ-(サ-モクロンGタイプ, KNラボラトリ-ズ; 測定精度±1℃)を用いて毎正時に記録した。5日間を単位として,カメラによって確認された活動の有無と2年分の日平均気温,日最低気温,日最高気温を集計し,両者の関係をロジスティック回帰により分析したところ,日平均気温で最も当てはまりがよく,本調査地における冬眠開始の閾値は8.2℃と推定された。よって,九州と本州の個体群間で冬眠開始の温度条件はほぼ同じと考えられ,温暖な九州における冬眠期間はより短いと推察された。今後,食物資源の季節変化等の他の要因についても調査を行い,検討する予定である。