ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-295
*新藤茜(東邦大・理),佐藤伸彦((財)日本生態系協会),瀧本岳(東邦大・理)
阿武隈山地南部を中心とした周辺地域では、ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicas、以下ツキノワグマ)は東北自動車道を境としてその西側に多く分布しており、東側にはほぼ分布していないとされていた。しかし近年、東北自動車道東側の阿武隈山地を中心にツキノワグマの目撃情報が増えており、ツキノワグマの分布が東側に拡大している可能性が示唆されている。またそれに伴う人への影響も懸念されている。そこで本研究は、東北自動車道の東側地域と西側地域でツキノワグマの生息環境を評価し比較することによって、東側地域におけるツキノワグマ管理対策に資することを目的とした。
生物多様性情報システムが提供している植生デ-タを利用し、GIS上で福島県、栃木県、茨城県の3県全域を対象にHabitat Suitability Index(HSI)モデルを用いた生息環境評価を行った。
HSIモデルによる評価の結果、東北自動車道の西側地域でツキノワグマの生息適性の高い地域が広範囲に広がっていることが分かった。しかし、東側地域でも西側地域ほどではないにせよ、生息適性の高い地域が見つかった。東北自動車道の周辺地域には、ツキノワグマの生息には不適である地域が多く見られたが、一部で西側地域と東側地域を繋ぐように生息適性のある地域も見つかった。
東北自動車道の周辺の生息適性が低い地域には市街地が多く、この市街地がツキノワグマの東側地域への移動を制限していると考えられる。しかし、ツキノワグマの移動は完全に制限されているわけではないと考えられ、HSIモデル解析の結果と既存のツキノワグマ分布情報より、西側地域から東側地域へ移動する際に利用すると思われる経路が推察できた。