ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-311
*畑中佑紀(京大・院・農),尾関雅章(長野県環境保全研究所),平尾章(筑波大・ 菅平セ),井鷺裕司(京大・院・農)
個体群サイズが縮小した生物の適切な保全には、個体群動態等の生態的情報に加え、各個体群の遺伝的組成や遺伝子流動パタ-ン等の遺伝的情報を取得する必要がある。本研究は絶滅危惧種タデスミレの保全に向けた遺伝情報の取得を目的とした。
タデスミレは長野県のみに生育するスミレ属植物であり、推定個体数は1700‐2000個体である。環境省のレッドリストで絶滅危惧?B類 (EN) に指定されている。残存する7個体群 (A‐G) の遺伝的状況を明らかにするために、同属であるタチツボスミレの個体群と遺伝的特徴の比較をAFLPとマイクロサテライト多型解析により行った。比較するタチツボスミレのサンプルは山間部と、分断化した都市部の生育地から採集した。個体群動態の追跡が行われているタデスミレ個体群Gについては開花個体、未開花個体、実生個体を含む全個体の遺伝子型を決定し、それぞれの成長段階における遺伝的多様性を比較した。
2種の比較の結果、タデスミレの遺伝的多様性は山間部のタチツボスミレ個体群よりも低く、都市部で分断化されたタチツボスミレ個体群と同程度であり、非常に低いことが明らかとなった。またタデスミレの各個体群にはレアアリルを持つ個体が少数ずつ含まれており、これらの存続が重要であることが示された。個体群Gの網羅的な遺伝解析の結果、実生へ更新が起こる段階で近親交配値が上昇し、レアアリルが失われる傾向がみられた。
本研究によりタデスミレの遺伝的多様性は全体的に非常に低いことが明らかとなった。しかし各個体群からレアアリルが検出されたことから、限られた遺伝的多様性の保全のためには全ての個体群を対象とした保全活動が必要であることが示された。