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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-315

外来侵入アリのヒアリにおける侵入個体群で見られる遺伝的な多様性について

*佐藤一樹(北教大・環境科学),笹千舟,坂本洋典,東正剛(北大・環境科学院),村上貴弘(北教大・環境科学)


本研究は、特定外来生物のヒアリ (Solenopsis invicta) の染色体数の変異、18S rDNAのFISHマッピング、Ag-NOR染色、高頻度反復配列、コロニ-内血縁度を台湾とアメリカ合衆国両個体群の標本を用いて明らかにし、ヒアリの侵入地域への適応進化メカニズムを解明することを目的に行った。またヒアリは日本や韓国以外の環太平洋地域ではすでに定着し、大きな被害を出しており、本研究は生物防除法開発の基礎研究の側面もある。

ヒアリの染色体数はオスがn = 16、メスが2n = 32を基本とするが、本研究の結果から、台湾、フロリダの個体群ともに染色体数のばらつきが大きく、オス、メスともに二倍体オスや三倍体などの倍数性の変異が高頻度で見られた。FISHマッピングの結果、両性ともに18S rDNAのシグナルの検出に成功した。また、雌雄ともにシグナルの大きさや数に変異が観察されたが、オスに変異がより多く観察された。Ag-NOR染色した間期核では、濃染されたスポットが1−15個と大きなばらつきが見られた。10種類の制限酵素を用いてヒアリゲノムを切断し、高頻度反復配列の検出を行った結果、オスのみに検出されたバンドを見いだした。また、両個体群のコロニ-内血縁度を推定して、実際に血縁度が0に近づいているのかを検証する。本来生存や繁殖には不利だと考えられるこれらの細胞生物学的変異がどのように個体群中に広まったのか、いくつかの要因が考えられる。その中で、ヒアリ駆除のために撒布された大量の殺虫剤、殺蟻剤の変異原性による可能性、侵入地域での近縁種もしくは通常では不可能なほど遺伝的に離れた個体群との交雑による影響、ヒアリがもともと持っていた特徴である、などが考えられる。これらの可能性について考察し、ヒアリの生物防除の一助としたい。


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