ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-322
*広木幹也(国立環境研),千賀有希子(立正大),野原精一(国立環境研)
釧路湿原は多様な植生を含む日本最大規模の湿原であるが、近年、植生が変化するなど自然環境が変わりつつあり、湿原内外の開発行為にともなう土砂や栄養塩の流入が原因のひとつではないかと指摘されている。元来、湿原では低温、高水分環境下で有機物が蓄積して泥炭を形成していくため、枯死植物の分解に伴う栄養塩の循環が抑制された環境であると考えられるが、土砂の流入は直接、植物に栄養を供給するばかりでなく、土壌微生物の分解活動を促進することにより間接的に可給態の栄養塩類を富化し、植生などに影響を及ぼしている可能性もある。そのため我々は、自然的、人為的環境の変化が湿原の生態系機能へ及ぼす影響を明らかにしていくことを目的として、釧路湿原において一連の調査研究を行っている。本報告では有機物分解機能を評価するために行った野外実験の結果について報告する。
【調査地・方法】ハンノキ林、低層湿原および高層湿原を含む湿原内の7地点において、セルロ-スろ紙片を2010年の7月に埋め込み、7および16週後に回収してその間の重量減少量から分解率を求めた。同時に各地点で表面水水質、土壌理化学性およびグルコシダ-ゼ(GLU)などの土壌酵素活性を測定した。
【結果】ろ紙片の分解率は16?87%(16週)で、堤防付近のハンノキ林および低層湿原の方が高層湿原よりも高い傾向にあった。ろ紙片のGLU活性と土壌GLU活性の間には概ね正の相関関係が認められたが、ろ紙片の酵素活性が他の地点の数十倍高くなる特異的な場所が1地点あった。この特異的な地点を除いては、土壌中のGLU活性の高い地点ではろ紙分解率も高い傾向にあり、土壌GLU活性が有機物の分解速度の指標となり得ることが示唆された。ろ紙片で特に高いGLU活性を示した地点では、微生物による有機物分解が他の地点とは異なった要因で制限されている可能性がある。