ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-331
*佐川志朗(自然共生研究セ),根岸淳二郎(北大院地球環境・自然共生研究セ),萱場祐一(自然共生研究セ),池谷幸樹(アクアトトぎふ),久米 学(自然共生研究セ),北村淳一(三重県新博・自然共生研究セ), 白江健造(木曽川上流河川事務所)
イタセンパラAcheilognathus longipinnis は,コイ科タナゴ亜科に属し,淀川水系,木曽川水系,富山平野の3地域に不連続に分布する.どの地域の個体群も生息確認が断片的,局所的であり,経時的に安定して生息しているとは言い難い状況にある.本種の主な生息場所は,ワンド(タマリ)と呼ばれる湾状(池状)の水域であり,河川の営力で形成される河道内砂州上の河川水位以下の凹部や土砂堆積を受けた水制工裏部等に位置する.しかし近年,これらのワンド環境は河床低下等により劣化の一途を辿っており,本種の生息に悪影響を与えていることが指摘されている.本種の生息場所を復元・創出するためには,生息場所の物理環境特性を,河川の氾濫,攪乱要因を含めて検討する必要がある.
木曽川では,1958年よりイタセンパラの生息が報告されていたが,1994年の確認を最後に絶滅が暗示された.しかし近年の水辺の国勢調査で再確認され,それ以降,各省庁による保全活動が活発化している.木曽川における本種の生息エリアには10地区約160箇所のワンドが存在するが,1970-80年代の調査以降,それらの多くのワンドを対象とした本種の生息分布調査はなされていない.演者らは,2007年から本種の生息場所特性を明らかにすることを目的として,計104箇所のワンドを対象に調査を継続している.その結果,本種の繁殖ワンドは面積が大きく,増水時の掃流力が小さく,淡水二枚貝(産卵母貝)の生息密度が大きく,水域のコネクティビティ(連続性)指数が大きいことが明らかとなった.以上を踏まえ,演者らは河川管理者と協同して,自然再生事業への成果の適用を検討,実施している.