ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-333
*井上太樹(北大・環境科学),南雲未智(北大・環境科学),吉田俊也(北大・北方生物圏FSC)
森林生態系において、枯死木は、生物のハビタットや物質循環に寄与する重要な構成要素である。枯死木は時間と共に、その材質(材密度、硬度、CN量など)が変化する。しかし、そのような腐朽過程における樹種間の差や、周辺環境の条件が及ぼす影響に関しては不明な点が多い。そこで、本研究では北海道北部の天然生針広混交林において、供給年代の異なる枯死木材の材質を調査した。調査は、北海道大学中川研究林照査法試験地で行った。この試験地では、1970年頃から約10年ごとに毎木調査と択伐が行われており、樹種、伐採年が特定された伐根が多数存在する。ここでは、枯死木としてこれらのうち伐採時の胸高直径が30 cm以上の、合計192本、13樹種(トドマツ、ダケカンバ、ベニイタヤ、ミズナラなど)の伐根を対象とした。各伐根で直径、高さ、心材腐朽の有無、腐朽段階(5段階)、表面硬度を記録した。また、成長錐を用いて、ひとつの伐根あたり二ヶ所から、部位(辺材付近および心材付近)別に材を採取し、含水率、密度、CN量を測定した。樹種および材の部位ごとの材密度(X)、生木の材密度(X0)、供給されてからの年数(t)を指数関数(X=X0e-kt)で近似することで分解定数(k)を算出し、材密度の半減期を求めた。トドマツ、ダケカンバ、ベニイタヤ、ミズナラにおける辺材付近の材の半減期は、それぞれ約63、11、18、21年であり、トドマツで腐朽が遅い傾向が明らかになった。しかし、各樹種とも、同一年に供給された伐根間でも材密度のばらつきが大きく、腐朽速度の評価には、伐根周辺の局所的な環境条件や伐採前の材の状態などを考慮する必要があると考えられた。そこで、伐根周辺の環境情報として、林床植生、林冠の閉鎖の程度、地形を考慮し、これらを踏まえた結果を考察する。