ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-352
岩本二郎(長岡市立科学博物館*),水澤正明(日本蜘蛛学会)
蜘蛛(くも)はゴキブリ、ヘビに次いで3番目に嫌いな人の多い生物といわれる。普段どこにでも居て誰もが目にしているものの、種名を把握している人は滅多にいない。しかし、種数が多い点と、都会の中を含め、どこにでも年中生息している点、さらに採集が容易である点は、生物多様性についての教育普及を試みる上では、むしろ教材として大きな発展性を秘めている。かつてガリレオ・ガイレイが宗教裁判にかけられたように、科学の歴史は迷信を振り払うことにあった。その意味では現代でも「気持ち悪い」という先入観で敬遠されることの多いクモは、まさに科学教育の真髄をなしているともいえる。東日本では毒のある種はたった一種しかいないが、蜂に比べはるかに安全であることは意外と知られていない。
長岡市立科学博物館では毎月1回、合計6回の“シリ-ズもの”の教室を実施しており、2006年から2010年までの5年間、蜘蛛の野外観察会を毎年実施してきた。そこでは観察・採集の他に液浸標本製作も指導し、自由研究コンテスト(県下生物標本展示会)への出品者を増やすことを目標にしてきた。採集方針等をまとめたレポ-トを提出することが規定になっており、ただ種数を多く集めることや珍品を採集するのではなく、採集地や時期を検討しながら生物の環境への適応について学ぶことが狙いである。
当初はクモというだけで人が集まらず、市内全小中学校88校を通じて全家庭に案内の手紙を配布してもらったが、それでも合計23234人中たった5人しか申込みが無かった。しかし改善を重ねてきた結果、現在では20名の定員を超えるようになってきている。トキ放鳥に取り組む新潟県では減農薬農法には関心も高く、その観点に導けば害虫の天敵であるクモへの関心は高い。本発表ではその可能性を追求した取り組みについて報告したい。