ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-029
*稲永路子(名大院生命農),有馬千弘,永松大(鳥大地域),鳥丸猛(弘前大農生),西村尚之(群馬大・社会情報),戸丸信弘(名大院生命農)
ブナの種子は主に重力散布される。このため、ブナが優占する原生林では成木間での遺伝的構造が検出されており、遺伝的に近縁な個体が近距離に分布することが知られている。しかし、遺伝的構造を作り出す原動力である種子散布について実測した研究例はまだ少ない。そこで本研究では、鳥取県大山に設置されたブナ老齢林内の4 haプロットにおいて、2009年度のブナ種子散布距離を、マイクロサテライトマ-カ-7座を用いた母性解析により明らかにすることを目的とした。母性解析では、2010年5月に発芽したブナ実生の果皮を使用し、DNA抽出を行った。実生の位置測定および果皮の採取は40×30 mの実生プロットで行い、実生プロットの周囲50 m範囲内に分布するDBH 12 cm以上の個体を母樹候補とした。その結果、解析された実生108個体において推定された母樹数は21、平均実生数は5.1であった。平均種子散布距離は8.6 ± 4.9 m、最大散布距離は23.7 m、最小散布距離は1.3 mであった。また、散布距離が10 m以内の実生が63%と、短距離の種子散布が大半を占めた。母樹のうち実生数が15以上であったのは3母樹にとどまり、13母樹で実生数が2以下と母樹の繁殖成功には偏りが見られ、逆J字型の分布となった。母樹の平均DBHは56.4 ± 12.0 cmで、繁殖に関わっていた母樹のほとんどが大径木であった。