ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-044
*川西基博(鹿児島大・教育),石川愼吾(高知大・理)
上高地梓川の河床砂礫部では,様々な発達段階のパッチ状先駆樹種群落が成立し,河畔林の中で最も大きな変動を示す.この群落は,ケショウヤナギをはじめとする先駆樹種群落の初期相として重要であるとともに,草本の多様性が高いことも注目される.本研究では,1994年以後16年間におけるパッチ状群落の消長と,2004年から2010年にかけての草本層の種組成の変化を報告する.パッチ状群落の消長について,1994年から99年にかけては消失したパッチが多く,新たに出現したパッチは少なかったが,1999年から2004年にかけては消失パッチ,出現パッチともに多かった.2004年以降は消失・出現パッチともに少なく,2004年を境にパッチの変動が小さくなった.また,パッチ状群落は2004年には河道の中で比較的分散していたのに対し,2010年には左岸側の一部分にまとまっている傾向があった.各パッチ状群落に調査区(3×3m)を設置し,2004年と2010年に植物社会学的手法による草本層の植生調査を行った結果,両年で合計218種が確認された.2004年に調査区内で確認された種は199種で,そのうちの73種が2010年までの間に消失した.一方,新たに出現した種は19種で,2010年に確認された種数は145種であった.両年とも確認された種の多くは出現頻度と平均被度が小さくなっていた.稀な種を除く111種を対象としてクラスタ-分析を行った結果,11の種群に区分された.このうち6つの種群はパッチ状群落の林齢階に対して分布の偏りがあった.以上の結果から,パッチ状群落が発達していく過程で,草本の種群を構成する種の多くが入れ替わっていることが明らかになった.様々な発達段階のパッチ状群落が存在することによって,草本層の高い種多様性が維持されていると考えられた.