ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-045
*畠瀬頼子(自然研)・阿部聖哉(電中研)・長岡総子(横浜植生研究会)・和田美貴代(学芸大)
北米原産の外来種ハリエンジュは全国の河川で分布を拡大し,急速な樹林化により,河原固有種や在来植生の減少が報告されている。一方,成立して数十年を経たハリエンジュ林での在来植物種の定着も報告されている。多摩川では1980年代からハリエンジュ林が増加し,現在では中流域で広く優占し,様々な生育段階の林分が見られる。そこでハリエンジュ林において,林分の発達とともに在来樹木の侵入が進むのかどうかを検討するため,多摩川中流域の樹林において在来樹木の生育状況を調査した。
多摩川河川環境管理計画において生態系保持空間が設定され,人為から保護されてきた樹林20箇所に調査区(10×10m)を設置し,毎木調査(樹種,胸高直径,樹高)を行った。各調査区では航空写真により樹林の成立年代を確認した。ハリエンジュ林への侵入が顕著であったエノキについては,再生産の状況を知るため結実の有無を確認した。サンプル数を増やすため調査区外でもエノキ40本について胸高直径,樹高,結実の有無を測定した。
ハリエンジュ林では林分の発達(林分全体の胸高断面積合計の増加)に伴い在来樹木の胸高断面積合計が増加する林分もあったが,在来樹木が増加せずハリエンジュの優占が続く林分もあった。ハリエンジュ林に侵入した在来樹木ではエノキが高い割合を占めた。エノキは胸高直径十数cm以上で結実が確認され,河道内で再生産していた。1987年,91年以降に成立した林分では発達に伴って在来樹木が増加する傾向があった。しかし,1984年以降に成立していた林分では胸高断面積合計が大きくとも在来樹木が少ない林分があり,樹林化して時間がたっても在来樹木の侵入が進まない林分があるようであった。エノキを中心とする在来樹種の生育が見られるものの,必ずしも林分の発達にともなって増加する傾向にはないことが明らかとなった。