ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-054
*村上雄秀(国際生態学センタ-), 西川博章((株)ラ-ゴ)
1年草(2・越年草を含む)は日本の植生の構成種において最も寿命の短い植物であり,栄養分の蓄積,葉群の高位置への展開など多年生の植物と較べハンデを負っている.現在,野外で観察される1年草は外来種や史前帰化植物が一般的であるが,レッドリストにも多数の在来の1年草が含まれる.多年生植物との競合が想定されるそれら1年草の保全には群落学的な組成の解析が寄与できる.本研究は日本の自然植生域に生育する希少となった1年草の生態を明らかにするため,植物社会学的な視点から生育環境や多年草との競合関係等を解析することを目的に実施した.
調査は滋賀県琵琶湖および静岡県伊豆半島の湖岸・海岸に生育するタチスズシロソウ,サデクサ,ヌカボタデ,ナガバノウナギツカミ(以上琵琶湖;金子 2010),ソナレセンブリ(伊豆半島;環境省 2007 VU)などの1年草群落および近接した立地に生育する多年草群落の計40群落を対象として行い,群落分類の上,両者の組成的差異・特徴を解析した.
・湖岸砂浜生のタチスズシロソウ群落は被覆(1年草比率:75% 以下同様)だけでなく種数(72%)も1年草に偏重した組成を持ち,多年草群落(被覆24%,種数40%)と明らかな差がある.1年草群落としての組成・立地上の独立性が顕著であった.
・湖岸湿地生のサデクサ群落など3群落は被覆では高い1年草比率を示すが(62%),種数(41%)では過半に達しない.多年草群落(種数20%)内に少数の1年草が競合的に侵入した生態を示唆した.
・海岸断崖地生のソナレセンブリ群落は被覆(45%)も低いが,種数(16%)では隣接した多年草群落(種数9%)に近い低い値を示した。強い環境圧下において単独種によるギャップ依存的な生育環境の確保が示唆された.
希少1年草群落はその生育立地タイプに依存した多様な組成的特徴,競合種との種間関係を有すると考えられた.