ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-058
石井史織(千葉大・園),沖津進(千葉大・園)
富士山森林限界付近には地上生地衣類のハナゴケ属が群生している。国土のほとんどが温帯である日本ではこのような環境は貴重であり、適切に保全する必要がある。保全する際には地上生地衣類を含めた生態系の知識を持って行う必要がある。しかし、日本では地衣類の生態学的研究は行われていない。そこで、地形と植生に注目してハナゴケ属の種分布について調査した。調査地である富士山5合目付近の御庭にはシラベなどの針葉樹林帯中に裸地が広がっている。裸地にはカラマツやイタドリなどから構成される植生パッチがあり、それら植物の周囲にハナゴケ属を中心とした地上生地衣類が直径1-6mのコケマットを形成している。本調査では、この植生パッチ中におけるハナゴケ属の種分布を調べた。分布調査では、パッチに4本のトランセクトを設けて行なった。調査の結果、一部の地衣の種分布にはパッチ内の植物と対応関係が見られた。パッチ中央部の樹木の下には蘚類が分布し、その周囲にミヤマハナゴケが分布していた。また、ナギナタゴケもパッチの内側に分布する傾向にあった。パッチ外側にはワラハナゴケが分布していた。一方、ウロコハナゴケにはパッチ分布に一定の傾向が見られなかった。地衣の種分布の傾向は方位や斜面とは明瞭な関係はなかった。そのため、ハナゴケ属の分布には植物、特に樹木による効果が大きいと思われる。植物による効果として考えられるのは風衝の軽減である。調査地は風が強く、裸地の植生回復を妨げるほどである。ハナゴケ属でもミヤマハナゴケは風衝に弱く、一方、ワラハナゴケは風衝のあるほうが良く成長することが報告されている。この違いがパッチでの種分布の違いに表れていると考えられる。ただし、風衝の影響を受けるのは主に多分枝型の種で、分枝をしないウロコハナゴケのような種は異なる分布限定要因が働いていると思われる。