ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-060
*柿沼薫, 岡安智生(東大・農), 佐々木雄大(東北大・理), ジャムスランウンダルマ-(モンゴル農大), 大黒俊哉, 武内和彦(東大・農)
乾燥地における非平衡モデルによると、降水量の変動性が大きい地域では頻繁に生じる干ばつにより家畜数が制限されるため、生態系の状態は放牧圧ではなく降水量に依存すると予測されている。しかし、非平衡モデルは様々な地形に起因する飼料資源の空間的異質性を考慮していない。牧民は資源の空間的異質性を利用することで、干ばつ時の家畜数減少を緩和しているため、干ばつ時に利用が集中する資源では放牧圧の影響が相対的に大きくなると考えられる。そこで本研究では、資源の空間的異質性と放牧圧の関係に着目し、この仮説を検証することを目的とした。
モンゴルのマンダルゴビ地域を対象に、地形傾度に沿った典型的な4つの群落タイプ(Achnatherum , Allium, Reaumuria, Caragara優占型)について、干ばつ時にどの群落に利用が集中するかを明らかにするため利用状況を牧民から聞き取った。また放牧圧の影響が群落タイプによって異なるかを調べるため、各群落タイプに放牧区と禁牧区を設置し家畜のフン数計測と植生調査(出現種と被度)を実施した。
聞き取り調査の結果、牧民は湖や河川跡に出現するAchnatherum群落に干ばつ時に依存する傾向が見られた。植生調査の結果、他の群落タイプではフン数が少なく、放牧圧による影響が観察されなかったが、Achnatherum群落タイプではフン数が多くさらに植生が放牧圧による影響を受けていた。
干ばつ時に依存する資源の状態は放牧圧の影響を強く受けており、仮説は支持された。よって非平衡モデルは、資源の空間的異質性と放牧戦略を考慮した上で修正する必要があることが示された。本研究は、降水量変動性の高い地域においても、放牧圧のコントロ-ルが必要であるという重要な知見を提供した。