ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-131
伊藤昭彦(国環研)
熱帯低気圧(台風)は撹乱を引き起こすことで、生態系の物質循環、動態、機能・サ-ビスに影響を与えている。2004年に日本列島に上陸した10個の台風を例として、プロセスモデル(VISIT)を用いて、岐阜高山サイトの森林炭素収支に与えた影響について解析を行った。このモデルはサイトのフラックス観測デ-タに基づいて較正されているが、2004年の炭素吸収量を過大推定する問題があり、その原因として台風による落葉の影響が考慮されていないために炭素固定量を過大評価しているという仮説を立てた。フラックス観測デ-タとの適合性に基づいてモンテカルロ法を適用し、各台風による落葉強度パラメ-タの確率分布を推定した。台風の強風によって高木層から10から20%の強度で落葉が発生することにより、総光合成量は200 g C m?2 yr?1近く低下することでフラックス観測との整合性が向上した。葉面積指数について推定結果と衛星観測を比較したところ、落葉に伴う2004年の成育期間半ばからの低下傾向が良く再現されていることが確認された。落葉した枯死物の分解による炭素放出や、翌年の光合成生産に対する影響は、モデル推定の中では比較的小さかった。これらの結果は、台風による強風が、風倒などの顕著なイベントだけでなく、落葉のような比較的軽いイベントによっても物質循環に影響を与えている可能性があり、地域スケ-ルの炭素収支評価に無視できない要因である可能性を示唆している。