ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-138
*稲垣善之(森林総研),倉本惠生(森林総研北海道), 野口享太郎(森林総研四国), 深田英久(高知県森技セ)
ヒノキ人工林において植栽木は土壌中の窒素を吸収し,葉,枝,繁殖器官などへ窒素を分配する。窒素をこれらの器官に分配する割合は,樹木が利用することができる窒素や光資源量に対応して変化することが予想される。本研究では高知県のヒノキ6林分を対象として,葉,幹,繁殖器官への窒素分配率を5年間にわたって明らかにした。各器官の窒素分配率と落葉の窒素濃度および立木密度の関係から,窒素と光資源が分配率に及ぼす影響を評価した。2002-2006年までの葉,枝,繁殖器官の生産量をリタ-フォ-ルで採取して求めた。幹成長量は20m×20mの調査区の毎木調査から求めた。器官ごとの窒素濃度は,葉,種子,雄花,材でそれぞれ,7.6,14.1,9.3,0.6g/kgであった。葉,雄花,種子,枝,幹への乾物分配率は,それぞれ28.4, 1.2, 3.5, 4.4, 62.4%であり,窒素分配率は,ぞれぞれ65.7,1.4,7.4,5.5,20.1%であった。葉への乾物と窒素分配率は,落葉窒素濃度が高いほど大きかった。幹へのこれらの分配率は,落葉窒素濃度が高いほど低い傾向が認められた。したがって,窒素吸収が多い場合には,葉への分配率が増大して幹生産の増加は抑制された。雄花への乾物と窒素分配率は,立木密度が低いほど大きい傾向が認められたが,葉の窒素濃度との関係は有意ではなかった。種子への乾物と窒素分配率は,立木密度や落葉窒素濃度との間に有意な相関関係が認められなかった。したがって,雄花への窒素分配率に対しては,窒素資源の制約が小さく,光資源が重要であることが示唆された。窒素濃度の高い種子の窒素分配率は,窒素の制限を受けるために,雄花と異なる傾向を示すと考えられた。