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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-144

樹種によるリタ-分解プロセスの違いが落葉リタ-の分解速度に及ぼす影響:日本の森林5林分におけるリタ-成分動態の定量的比較

*小野賢二(森林総研東北),平舘俊太郎,森田沙綾香(農環研),平井敬三(森林総研東北)


落葉中の有機物がリタ-分解速度の低下に及ぼす影響を評価するため、スギ、ヒノキ、イタジイ、ブナ、ミズナラ、シラカンバの落葉を対象にリタ-分解試験と固体13C核磁気共鳴法を適用し、リタ-分解に伴う有機物成分の経時変化を定量解析し、落葉リタ-の分解速度kと個々の有機物成分のkの関係を解析した。落葉リタ-全体とリタ-中の各有機物成分の重量残存率は全樹種でリタ-分解の進行とともに指数的に減少し、それらの分解速度kは時間の経過に伴って低下した。リタ-全体のkは0.4年-1で、樹種に限らず一定であったが、有機物成分のkは樹種により幅があった。特に脂肪族と芳香族化合物のkは樹種特異性を示した。落葉広葉樹における脂肪族化合物のkは0.28-0.34年-1であり、常緑広葉樹や針葉樹より低い値を示した。これは各成分の初期含量や分解者による再合成、分解初期の溶脱プロセスなどの樹種間の違いを反映したと考えられる。広葉樹における芳香族化合物のkは針葉樹よりわずかに高い値を示したが、おそらくこれは樹種によるシリンギルおよびグアイアシルリグニンの組成や縮合型タンニンの含有量を反映したのだろう。O-アルキル化合物のkは0.44-0.57年-1を示し、全樹種で他の成分に比べて最も高い値を示したが、分解者生物によるホロセルロ-スの選択的分解を反映した結果であろう。一方、カルボニル化合物は有機物成分の中で最も低いk値を示したが、これは有機物分解において起こる酸化分解反応によってカルボニル基が生成されたことに起因する。リタ-全体に対する各有機物成分の相対的分解性を比較したところ、O-アルキル化合物はリタ-分解の進行に貢献し、逆にカルボニル化合物はリタ-分解速度の低下に寄与した。脂肪族と芳香族化合物のリタ-分解速度の低下への寄与率は樹種による有機物の成分組成や化学構造の違いを反映して異なった。


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