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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-158

森林生態系への窒素負荷の影響

*徳地直子(京大フィ-ルド研),大手信人(東大院),臼井伸章(京大院),福島慶太郎(京大フィ-ルド研)


近年増加が指摘されている窒素負荷が森林生態系に与える影響について既存の文献を整理し、窒素飽和を規定する要因ならびに今後研究が必要な課題について検討した。温帯森林生態系は多くの場合窒素制限下にあるため、生態系に流入した窒素を生態系内に取り込み生態系内部で循環させ、系外への流出は多くはない。しかし、産業革命以降、化石燃料の燃焼や施肥に伴い大気中に多量の反応性窒素が放出され、大気降下物として生態系に負荷される窒素量が増加している。窒素が森林生態系の生物および土壌のもつ窒素保持能を超えて負荷されると、その森林生態系は窒素制限が解除され”窒素飽和”に至り、窒素はおもに硝酸態窒素(NO3-)として系外に流出し、下流の生態系を汚染する。過剰な窒素負荷量に対して、森林生態系から流出するNO3-濃度は負荷量と対応関係を示し、流出水中のNO3-濃度が窒素飽和段階の指標として用いられる。植生および土壌は主要な窒素保持の場であり、窒素負荷への植生の応答は種によりさまざまであるが、大気中の二酸化炭素濃度の上昇との相乗効果も加わり、温帯および熱帯の広い地域で窒素負荷により純生産量が増加すると予測されている。土壌の窒素保持量も炭素保持とともに増加することが示されている。一方、集水域レベルでの窒素保持能は気象・地質・撹乱履歴などによって多様で、特に気象の年変動により窒素負荷に対する流出水中のNO3-濃度の応答が不明瞭となる点が指摘されており、より多面的な観測が必要と考えられる。さらに、森林生態系からの窒素流出はNO3-の形態だけでなく有機態窒素での流出や脱窒などでも起こるが、これらの過程の定量的な研究は十分とはいえず、今後の研究が急務である。森林の収穫は生態系の窒素量を減らし窒素飽和を遅らせるが、森林経営と生態系機能との両立にも検討が必要である。


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