ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-171
*上野真由美(北海道環境研), 梶光一(農工大・農), 宇野裕之(北海道環境研)
多くの生物において、個体群密度の上昇に伴う餌資源の枯渇によって生存や繁殖に負の変化が表れることが知られている。ニホンジカの生息密度が日本各地で上昇し、人間社会との軋轢を起こしていることを考えると、適切な個体群管理には、いつ、どのように密度依存性が発生するのか、そして密度依存性は個体群増加率にどの程度負の影響をもたらすのか明らかにすることが求められる。Ueno et al. (2010)は、北海道東部足寄町に生息するニホンジカ個体群の動態解析を行い、1990年代後半に0歳の期間生存率が密度依存的に低下したことを報告した。しかし、その発生メカニズムは明らかにされていない。そこで、本研究では0歳の期間生存率に影響を与える要因である(1)出生時体重と(2)出生日に注目し、0歳の生存率の低下を裏付けるような密度依存的な変化が見られたのか検証した。1991-1992年に北海道大学が学術捕獲調査において、1996-2001年に北海道環境科学研究センタ-が有害駆除調査において収集した捕獲個体の体躯計測値と出産期の成獣メスの胎子の有無に関するデ-タを使用した。調査期間の個体群密度については、先行研究におけるコホ-ト解析を用いた復元個体数を森林面積で割った値を使用した。出生時体重を表す指標として出生年別成長曲線を推定し、個体群密度の上昇に伴う成長曲線の低下の有無について検討した。次に、出産期の成獣メスの胎子の有無は、全ての成獣メスが妊娠していると仮定すれば、出産を終えたかどうかの指標となる。そこで、胎子の有無デ-タをロジスティック回帰モデルにあてはめて出生日を推定し、個体群密度の上昇に伴う遅れを検討した。検討結果を踏まえて、ニホンジカ個体群における密度依存性の発生機構を考察する。