ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-185
*伊藤淳郎(北大院・水産), 山口まどか, 依田憲(名大院・環境), 山本麻希(長岡技科大・生物), 塩見こずえ, 佐藤克文(東大海洋研), 山下麗, 高田秀重(東京農工大・農), 綿貫豊(北大院・水産)
残留性有機汚染物質(POPs)は難分解性で,大気,水や動物を介して放出源から拡散する.また,POPsは生物濃縮により高次捕食者に蓄積し,内分泌撹乱作用などの影響を示す.海鳥は海洋生態系における高次捕食者で,内臓などの体内脂質でPOPsの測定が行われてきたが,体内脂質では採食から数カ月以上残留するため,どこで採食した餌の影響を受けているか推定するのが困難である.しかし,体外に分泌される尾腺ワックスでは,POPsの一種のPCBsの異性体組成が血液と似ており,反映期間が体内脂質より短いと考えられているため,繁殖期間中など短期間の海鳥体内の汚染状況がわかる可能性がある.日本海は半閉鎖海域で,POPs蓄積が太平洋と比べ進んでいることが知られている.そこで本研究では 2009年8?9月に日本海の新潟県粟島と太平洋沿岸の岩手県タブの大島で,繁殖中のオオミズナギドリCalonectris leucomelas にGPSロガ-を装着し,その回収時に尾腺ワックスを採取した.1週間程度のロガ-装着期間中に,粟島個体は日本海と北海道付近の太平洋の両方を,タブの大島個体は北海道?三陸沿岸の太平洋のみを利用していた.尾線ワックス中のPCBs,DDTs,HCHsの各異性体の濃度は,太平洋で採食したタブの大島個体に比べ,日本海のみで採食した粟島個体がPCBs,DDTsの濃度が1.8-2.7倍高かった.日本のオオミズナギドリには3つの越冬地が知られており,粟島とタブの大島の個体群は,個体により行先は異なるが,3つ全ての越冬地を利用している.従って,本研究で明らかになった尾腺ワックスの汚染物質濃度の島間の差は,繁殖期間中の短期的な海鳥体内の汚染状況も反映している可能性を示す.