ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-187
*鍋屋耕平,徳永幸彦(筑波大・生命共存)
集団繁殖性サギ類は雛への給餌のために、餌場とコロニ-(集団繁殖地)を往復する。繁殖を成功させるには、短時間に出来るだけ多くの餌を持ち帰る必要がある。先行研究では、サギ類はコロニ-近くの餌場を主に利用し、餌場とコロニ-間の移動時間を短くすると考えられてきたが、それを実験的に調べた研究はこれまでにない。そこで本研究では、人為的な影響無しに自然消滅したコロニ-に着目し、そのコロニ-周辺の餌場におけるサギの分布をコロニ-消失の前後で比較した。
調査地は茨城県のコロニ-Aを中心に半径10km圏内の水田とし、調査地内の水田を車で踏査し観察されたサギの位置を記録した。調査地内には2009年はコロニ-Aとその北西に約10kmの位置にコロニ-Bが、2010年にはコロニ-Aが消失しコロニ-Bのみが存在した。コロニ-Aの東側にはどちらの年もコロニ-は存在しなかった。
コロニ-Aの消失にも関わらず、2010年もコロニ-Bから10km以上離れたコロニ-Aの餌場で多数のサギが観察された。また、調査地を9つの区域に分割し、各区域におけるサギの密度を比較すると、2009年と2010年で餌場区域の利用のされ方は同じであり、さらに、2010年では調査期間の間ずっと、餌場区域の利用のされ方に変化は無かった。つまり、サギ類は必ずしもコロニ-近くの餌場を利用するわけではなく、遠くの餌場に強い固執性を示しながら利用する可能性もあることが示された。
サギ類では繁殖個体が同じコロニ-またはその近隣に翌年戻ってくることが知られており、2010年にコロニ-Bで繁殖する個体の中には、コロニ-Aの餌場での採餌経験を持ち、固執する個体もいると考えられる。また、サギ類は他個体に追従して採餌する傾向があるため、コロニ-Aの餌場に固執する一部の個体にコロニ-Bの他個体が追従する形で、観察されたような、コロニ-から遠く離れた餌場での採餌が行われたと考えられる。