ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-189
*石庭寛子, 関島恒夫(新潟大・自然科学)
ダイオキシンとは、ゴミ焼却や工場排水など人為的に生成される極めて毒性の高い化学物質である。ダイオキシンが生物に与える影響は催奇形性や発ガン促進など多岐にわたるが、中でも内分泌かく乱作用等が引き起こす生殖機能の低下は、生物の適応度を通して地域個体群の存続にも深刻な影響をもたらす可能性がある。わが国における主要なダイオキシン汚染源は、現在、廃棄物焼却処理工場や埋め立て地であり、特に違法な焼却場などが人目を避けた中山間地に乱立することにより、その周辺に生息する森林棲の野生動物への汚染が懸念されている。
本研究では、日本の森林帯に広く生息するアカネズミ(Apodemus speciosus)を対象種として、ダイオキシン汚染がアカネズミ個体群に及ぼす影響を、ダイオキシン耐性獲得による局所適応の評価を行い明らかにする。耐性獲得の有無を示す指標として、ダイオキシンの毒性作用機序に関与するダイオキシン受容体(AhR)の多型を用いた。
アカネズミAhRの多型とその機能を調べたところ、AhR転写活性化領域内のアミノ酸799におけるグルタミン(以下、Q)からアルギニン(以下、R)への置換によってタンパク質の機能低下が認められた。さらに、各遺伝子型を持つアカネズミに対し、ダイオキシンの経口投与による検証を行ったところ、有意に生殖機能が低下したQ/Q型に対し、R/R型では反応が認められなかったことから、R型はダイオキシン耐性獲得型であることが明らかになった。この多型を指標として、ダイオキシン汚染地域及び非汚染地域における個体群内の対立遺伝子頻度を比較したところ、その頻度に違いは見られなかった。その理由として、日本でのダイオキシン汚染が限られた小範囲であること、対象種であるアカネズミの高い移動分散能力によって周辺からの遺伝子移入が局所適応を妨げていることが考えられた。