ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-194
*白川 北斗,後藤 晃
私たちが野外において観察する生物の生息環境が,実は生息する生物自身の活動によって改変された状態にあることは古くから知られていた.近年,この単純で重要な事実は,生態系エンジニアリングと呼ばれ,個体群・群集生態学など様々な分野への橋渡しとなる研究が盛んに行われている.ヤツメウナギ類は原始的な脊椎動物の一つであり,確認されている全ての種が3-7年の幼生期の間,河川の軟泥河床に生息する.ヤツメウナギ類幼生の生息数は魚類大の生物で最も多いとされ,その分布域は南北の中・高緯度地域に及ぶ.また最近,河床内での移動による撹乱により,河床を好気的に改変すること,河床の硬度を軟化させることが明らかとなっている.このため,生態系エンジニアとしてのヤツメウナギ類幼生の研究は,生態学分野にはもちろん,近年減少傾向にある本科の保全・管理などにも興味深いテ-マを提供する.本発表では,カワヤツメ幼生(全長8-10cm)を低・中・高密度で約2ヶ月半飼育し,その幼生が微小無脊椎動物(水生のイトミミズ類),栄養塩の動態,藻類の成長や落葉分解,物理環境要素に与える影響を評価した.実験開始前のイトミミズ類の生息密度に差は認められなかったが,30日目におけるイトミミズの生息密度はControlが最も高く,幼生低密度処理,中密度処理,高密度処理の順で低くなった.また藻類の成長量は,幼生高密度処理で最も多く,次に中密度で多かったが,低密度処理とControlでは少ない傾向を示した.これらのことから,ヤツメウナギ類幼生の中・高密度での生息は,河床に生息する微小無脊椎動物などの一次消費者に負の影響を,藻類などの生産者には正の効果があると示唆された.発表では,上記に加えて栄養塩(C,N,P)の動態,河床有機物の分解や粒度分布への影響を考察し,河川生態系におけるヤツメウナギ類幼生の機能的役割について議論する.