ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-248
*千葉晋(東農大・生産),吉野健児(佐大・低沿研セ),金岩稔(東農大・生産),五嶋聖治(北大院・水産)
漁業はしばしば漁獲対象となる動物の生活史を可塑的に変化させる。しかし、それらが常に適応的な変化、あるいは無視できる変化であるかどうかは、ほとんど議論されていない。本研究では、雄から雌へ性転換するエビを対象に、雌選択的な漁獲に起因した可塑的な性転換とその意義を調べた。調査した個体群では基本的に年齢構成が性比に反映されており、1才群の多くは雄で、2才群の多くは性転換後の雌であった。しかし、早く性転換する1才雌や性転換を延期する2才雄の出現によって、年齢組成の年変動に起因する性比の歪みが緩和されていた。この性比調節はエビによる年齢組成に応じた可塑的な性転換によることが、野外調査と室内実験によって証明された。この結果は、性配分理論の一部として古くから予測されてきた可塑的な性比調節を支持する最初の演繹的な事例である。ただし、可塑的な性転換には体サイズが制約となっており、1才個体が雌として十分な大きさでない場合は、雌の供給は不十分になることが示唆された。さらに、成熟期に調節された性比は、繁殖期直前に行われる大サイズ選択的な、すなわち雌選択的な漁獲によって雄バイアスに歪められており、可塑的な性比調節は十分でなくなるか、あるいはむしろ不適切になっていた。漁獲対象動物に限らず、野生生物資源の保全において、人間活動に起因した条件依存的な生活史変異を考えることは、我々が認識している以上に重要なことかもしれない。