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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-250

カヤネズミの越冬生態-個体群維持に関わる植生構造-

*黒江美紗子,大堀聰(早大・自然環境調査室)


温帯から冷温帯に属する日本の野生動物は、冬季に死亡率がもっとも高くなるものが多い。この時期の死亡率は、その後に続く繁殖期の個体群サイズに大きく影響するため、越冬期の生息地選択を明らかにすることは個体群動態を理解する上で重要である。

カヤネズミは、繁殖に適した生息環境は明らかとなっているが、越冬に適した生息環境は明らかになっていない。本種は体サイズが小さいため、冬季に生じる餌資源の減少や外気温の低下が、個体の生残に大きく影響する可能性がある。秋に捕獲された個体の9割以上が春先には再捕獲されないという報告からも、冬季の死亡率は非常に高いことが予想される。越冬場所の選択により、個体の越冬成功率は大きく左右されるだろう。

カヤネズミの生息場所には、複数種の草本群落が存在し、冬季の餌資源量や温度環境は草本の種類や群落構造により異なる。本研究は、草本群落の種類や構造に着目し、カヤネズミの越冬場所および越冬成功率に関わる要因を明らかにすることを目的とする。調査は非繁殖期である12月末から3月の間に、植生の異なる生息地が点在する埼玉県狭山丘陵および千葉県九十九里平野で行った。越冬場所を特定するため、複数の草本群落を対象にトラップを用いた捕獲調査を行い、越冬成功率と環境要因との関係を明らかにするため、各群落の餌資源量と地表面温度の測定を行った。

その結果、カヤネズミは夏季繁殖期にはオギやススキなどの高茎草本に営巣するが、越冬期にはサヤヌカグサやチゴザサなどの低茎草本の群落に多く出現することが明らかとなった。これまでカヤネズミの営巣数は、営巣に適した草本群落の面積が重要であると考えられてきたが、夏季に営巣数の少ない低茎草本群落の存在が冬季の生残に関係し、それが繁殖個体群のサイズに影響していることが示された。


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