ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-254
*片平浩孝(広大生物圏),白川北斗(北大水産),長澤和也(広大生物圏)
無顎類カワヤツメLethenteron japonicumは回遊性の生活史を有し, 3-4年の河川生活を経たのち海に降る.産卵のため再び河川に戻るまでの間,本種は吸盤状の口で海産魚などの体表に取り付き,体液や組織を吸い取って成長するとされているが,採集の難しさから摂餌生態の詳細は不明である.
そこで演者らは寄生虫に着目した.寄生虫は宿主と密接に関連して生活しているため,生きた標識として宿主の生態研究に有効利用できる.特に,「食う・食われるの関係」を介して宿主に寄生する寄生虫は,食性研究に役立つ.本研究では,カワヤツメの海洋生活期における摂餌生態を明らかにすることを目的に,産卵のため海から河川に遡上して間もないカワヤツメ成魚の寄生虫相を調べた.
2010年5月29日に北海道石狩川中流域で採集された成魚11尾の消化管内から,海産の寄生虫4種(吸虫1種,Brachyphallus crenatus;条虫2種,Nybelinia surmenicola (plerocercoid),Pelichnibothrium speciosum (plerocercoid);鉤頭虫1種,Bolbosoma caenoforme)を得た.これらはいずれも食物連鎖を介して宿主に寄生する種であった.
カワヤツメは、他生物に取り付く特異な摂餌様式のため,しばしば寄生者として扱われる.しかし,今回得られた寄生虫の感染経路を説明するためには,カワヤツメが餌生物の体表面組織だけでなく,内臓を含む様々な部位を消費している必要がある.おそらくカワヤツメは,寄生虫の中間宿主・運搬宿主となるような小型魚類に取り付いた際に,それら小型生物の体の大部分を消費しているのだろう.カワヤツメは大型の餌生物には寄生者であるが,小型の餌生物に対しては真の捕食者として機能しているのかもしれない.