ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-305
長池卓男(山梨県森林研)
ニホンジカによる植生への摂食が近年顕著になりつつある南アルプス北岳亜高山帯において、その影響を定量化した。調査は、標高2200-2800mまでの通称右俣および草すべりの登山道沿いでダケカンバ林および高茎草原を対象とした。登山道沿いの約30mおきに長さ20mの調査区を設定し(ダケカンバ林16調査区、高茎草原26調査区)、登山道の両側に5m間隔で1×1mの植生調査区を設置した(1調査区あたり10植生調査区。合計420植生調査区)。各植生調査区に出現した植生高2m以下の維管束植物種を記録し、ニホンジカによる摂食の有無も記録した。ダケカンバ林および高茎草原での種組成には有意な相違がみられたが、種多様度にはみられなかった。摂食率(各調査区の全出現種の出現頻度に占める摂食されていた種の出現頻度の割合)はダケカンバ林で有意に高かった。それは、Ivlev指数によって摂食の選好性が示された種の種数および出現頻度がダケカンバ林で有意に高かったことが影響していると思われる。種多様度と摂食率の関係は、ダケカンバ林では有意な負の相関が見られたが、高茎草原ではみられなかった。これは、摂食率の高いダケカンバ林では植生の均質化が生じていることが示唆された。Indicator Species Analysisによってダケカンバ林または高茎草原での出現頻度の偏りが示された種についての摂食は、多く出現していたハビタットで必ずしも高いわけではなかった。たとえば、ミヤマハナシノブ(国・山梨県ともに絶滅危惧?類[VU])は、出現頻度は高茎草原で高かったが、摂食はダケカンバ林で顕著であった。このように、出現頻度が少ないハビタットで摂食が顕著である種では、出現頻度が少ないハビタットでの消失が危惧され、摂食の初期段階ではこのことがハビタット間での植生の差異化を促進することが示唆された。