ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-307
*浜崎健児,田中幸一(農環研・生物多様性)
近年、安心・安全な作物の生産や環境への負荷軽減を目的として、環境保全型農業への転換が進められている。水田が持つ代替湿地としての生物保全機能は、栽培技術の近代化・効率化等により失われつつあるが、環境保全型農業への転換によってどのように変化するのか注目される。本研究では、水田に生息する水生昆虫(コウチュウ目、カメムシ目、トンボ目)に着目し、栽培管理や周辺環境の違いがこれらの生息に及ぼす影響を検討した。
栃木県から福島県南部の6地域に、有機・減農薬栽培水田と慣行栽培水田をそれぞれ2-3筆ずつ選定し、たも網を用いたすくい取り法により水生昆虫の種類・個体数を調査した。また、調査水田の周囲約5×5km内の土地利用面積割合を土地利用3次メッシュデ-タから算出するとともに、冬期も湛水状態にある池数を現地調査により計数し、種数・種組成との関係を解析した。
種数は慣行水田よりも有機・減農薬水田で多い傾向を示し、違いの程度は地域によって異なった。また、種構成デ-タをクラスタ-分析およびNMDS法により解析した結果、種数の多い地域では、栽培管理の異なる水田が異なるグル-プに分類されたのに対し、種数が少ない地域では、同じグル-プに分類された。NMDSの各軸と土地利用・池数との関係を解析した結果、種数が多い地域の水田は、周囲の池数が多く樹林地面積割合が高い傾向を示し、種数が少ない地域の水田は、居住地や畑、水田、荒地、河川・湖沼の面積割合が高い傾向を示した。また、池数は種数と正の相関を示したものの、変化の傾向は農法間で異なり、慣行水田よりも有機・減農薬水田で傾きが大きくなった。
以上の結果から、有機・減農薬栽培は水生昆虫の生息にプラスに働き、その効果は、落水期以降も生息可能な環境が周囲に存在し、種が豊富な地域で高いことが示された。