ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-323
須賀 丈(長野県環境保全研)
長野県では現在、生物多様性地域戦略の策定を進めている。地域戦略の策定では、地域特性をふまえた生物多様性の現状と課題の整理がその前提として必要である。一方、地域戦略を実効性のあるものとするためには、関連する部局やセクタ-を横断的に巻き込むことにつながる情報の提示も必要である。しかしそうした必要に応じるための情報はさまざまな文献などに散在し、総合的な知見としては十分まとめられていない。
そこで長野県環境保全研究所では、既存の文献のレビュ-と希少種などの地理的分布情報の解析により、「長野県生物多様性概況報告書」(仮称)の作成をおこなっている。このなかでは、「長野県の絶滅危惧種の分布集中域はどこにあるか?」、「長野県で生物多様性の危機の要因別の事例にはどのようなものがあるか?」、「それらに対する解決策としてどのようなものがありうるか?」といった問いを立て、それらに対する回答をまとめている。
たとえば、長野県内で近年絶滅の危険度が高まっている植物種の多い場所は自然公園の指定区域の外にあること、“第2の危機”への対応策は財源をふくめ持続可能な地域づくりにかかわる幅広い社会領域をまきこむ必要があること、“第3の危機”では国内および県内由来の外来生物による地域固有性の攪乱の問題にも対処すべきことなどを示している。この報告書は、県の地域戦略策定委員会に中間報告済みであり、幅広い県民意見とともに具体的な行動計画づくりのため利用されることとなっている。
このように生物多様性地域戦略に向けた行政部門への情報提供では、情報の総合的な提示が求められる。そこでは地域の自然史的背景および社会的・経済的背景を幅広くとらえ、関連付けることが必要である。具体的な行動計画づくりにむけては、提案されている解決策を選択肢として示すことにより、体系的で幅広い議論を喚起することが可能になると考えられる。