ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P2-342
*齊藤哲,新山馨,野宮治人(森林総研)
大陸における産業活動の活発化に伴い越境汚染物質が増加し、森林への悪影響が近年指摘されている。森林が長期間汚染条件下にさらされることによって徐々に悪影響が表面化すると考えられ、樹木が枯死する場合もある。汚染物質に対する感受性も種によって異なり、保全のうえでも汚染物質の影響を受けやすい種の把握は重要である。しかし、台風撹乱のような物理的な枯損と異なり、樹木が少しずつ衰弱し枯死に至る場合、様々な要因が複合的に作用し、汚染物質による影響かどうかの判断は困難である。そのため、汚染物質の影響を受けやすい種に関して十分な情報が得られていない。本研究では、森林の長期間のモニタリングデ-タを基に個体群動態の解析により、越境汚染物質の影響を受けて個体群が減少している可能性のある種の抽出を試みた。大陸に近く越境汚染の影響を受けやすい西南日本の2カ所(綾、屋久島)の照葉樹林を解析対象とした。胸高直径5cm以上の高木種・亜高木種を対象とした個体群センサスを数年おきに、綾では1989年から8回、屋久島では1996年から4回実施してきた。ふたつの照葉樹林を構成する主要樹種について綾18年間、屋久島11年間の幹の枯死率、幹数変化率を算出した。群落全体の期間枯死率は綾、屋久島ともに1%強程度で、日本の他の森林群落と大きな違いはみられなかった。種ごとにみると、枯死率が高く個体数が大きく減少していたものは、綾でクロバイ、ミズキ、アカガシ、タブノキなど、また屋久島ではハマセンダン、ヤクシマオナガカエデ、クロバイ、ヒメユズリハなどであった。ふたつの照葉樹林ともギャップ依存の更新様式をもつ陽性樹種の一部が個体数を大きく減らしており、実際汚染物質の影響が出ているとすれば、これらの種が被害を受けやすい可能性があると考えられた。