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ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-007

ナナカマド属2種・アズキナシとウラジロノキにおける生活史及び個体群動態の比較

*原澤翔太(京都大・農), 正木隆(森林総研), 直江将司(京都大・生態研), 井鷺裕司(京都大)


森林群集における樹種の共存を考える上で、その種の生活史を把握することは不可欠である。個体群統計学の観点から種の生活史を定量的に明らかにする研究はこれまで数多くなされてきたが、動態パラメ-タの推定におけるサンプル数の制約から、対象は群集内で個体数の多い種に限定されてきた。

しかし近年、階層ベイズモデルによりサンプル数の少ない種の動態パラメ-タ推定も行われるようになってきた。本研究では、各地の落葉樹林に広く分布するが決して優占種とはならないナナカマド属のアズキナシとウラジロノキを対象とし、茨城県北茨城市の小川試験地で1987年以来蓄積されてきた観測デ-タを用いて、階層ベイズモデルにより推移行列モデルのパラメ-タを推定した。そしてこの2種間、及び他の樹種との比較により2種の生活史特性を明らかにし、群集内に低密度ながらも個体群が維持される機構を考察した。

当年生実生・実生・稚樹・幼齢木・成木の5成長段階での解析の結果、実生・稚樹・幼齢木で2種とも相対的に低い死亡率を示し、特にウラジロノキは稚樹と幼齢木でブナなどの耐陰性の高い樹種群より顕著に低い値を示した。一方で、当年生実生の死亡率はともにコナラなどの耐陰性の低い樹種群より高い値を示した。

行列の固有値で指標される個体群増加率は耐陰性の高い樹種群、ウラジロノキ、アズキナシの順に高く、いずれも増加傾向だった。弾力性の傾向は2種とも耐陰性の高い樹種群と似ていたが、ウラジロノキは稚樹と成木においてより強い類似傾向を示した。

以上の結果から、この2種は、実生-幼齢木で比較的高い耐陰性を持つものの、生活史全体で見ると極相林を構成できるほどの強い耐陰性はないため、撹乱後の二次遷移の途中相に出現し、森林群集で優占種となることなく個体群を維持していると考えられる。


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