ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-009
*早船琢磨,西澤美幸,大原雅(北大・院・環境科学)
固着性である植物は、それぞれの種のもつ基本的な生活史とその生育環境との相互関係の中で進化してきた。従って広範囲に分布する植物では、地域集団間で多様な形態的・遺伝的な変異性を示すと考えられる。本研究の対象種オオウバユリは北海道、本州中部以北に生育する多年草である。種子繁殖と地下部の娘鱗茎の形成による栄養繁殖の2つの繁殖様式をもつ。交配様式は自家和合性をもつが、一度開花した個体は枯死するという、多年草でありながら一回繁殖というユニ-クな生活環をもつ。2009年、北海道内の様々な集団で開花個体を対象に個体サイズ、花数、遺伝的多様性に関する調査を行った。遺伝的多様性は8つのSSRマ-カ-を用いて評価した。その結果、集団間で形態や遺伝的多様性に変異が存在することが明らかになった。しかしオオウバユリは一回繁殖であるため、同じ集団であっても年によって開花個体は別個体となる。そこで2010年に同じ25集団において再度、同様の調査を行った。その結果、個体サイズ、花数、遺伝的多様性に関して有意な年次変化は認められなかった。このことから開花個体は入れ替わりながらも集団のもつ形態的・遺伝的特徴は安定しているものと考えられた。
この他、オオウバユリは自家和合性であるが、個体サイズと花数の地域変異がポリネ-タ-に対するディスプレイと関連している可能性があると考え、個体サイズ・花数と他殖率に関する調査を行った。他殖率は除雄処理を行った花の果実重と無処理の花の果実重の比較、および種子と種子親個体との遺伝子型の比較より算出した。その結果、個体サイズ・花数と他殖率の間に明瞭な関係性は認められなかった。このことからオオウバユリの個体サイズや花数の地域変異はポリネ-タ-に対するディスプレイではなく、物理的環境を含む別の要因と関連している可能性が示唆された。