ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-053
岡田桃子*,石塚航,後藤晋(東大・農学生命)
植物は、秋の深まりともに耐凍性を高め、冬期の凍害を回避する低温馴化を行うが、一方で伸長成長の休止を伴うため、そのフェノロジ-は樹種の棲み分けにも関係する重要な形質であると考えられる。北海道の代表的な針葉樹であるアカエゾマツとエゾマツは、前者が後者よりも山岳の高標高に分布している。フェノロジ-も顕著に異なり、開芽期の早いエゾマツの方が晩霜害を受けやすいことが知られている。しかし、秋期の耐凍性獲得フェノロジ-についてはよくわかっていないため、本研究では、異なる標高の天然林に生育する両種の耐凍性獲得時期の差異を調べた。
供試サンプルとして、東京大学北海道演習林内の標高700m、1050m、1200mの天然林に生育するアカエゾマツ、エゾマツ各4個体を選び、2010年10月-11月に3回にわたって当年枝を採取した。サンプルは北海道大学低温科学研究所において採取翌日に?15℃と?30℃の2処理の凍結処理を行い、解凍後、昼夜処理したチャンバ-におき、針葉の褐変割合を指標として被害度を評価した。
?30℃の凍結処理の結果、700mのサンプルでは1回目の試験においてエゾマツがアカエゾマツよりも有意に被害度が高かったが、2回目ではわずかな被害があったが種間差がなくなり、3回目では全サンプルで被害がみられなかった。1050m以上では両種ともに1回目から凍害が見られなかった。?15℃の凍結処理では?30℃よりも被害が少なく、両種とも1回目の700mのサンプルのみがわずかに被害を受けていた。
以上より、低標高では耐凍性獲得は遅く、調査時期を通じて漸次高まったが、種間差が認められ、エゾマツのほうがアカエゾマツよりも遅いものとみられた。このような耐凍性の高まる時期の違いは、稀な早霜害の有無に関係し、両種の標高的な棲み分けに関係している可能性がある。