ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-058
*南野亮子, 舘野正樹(東大・院・理・日光植物園)
枝には常に自重による力がかかっており、この力は枝の変形を引き起こす。特に側枝は、伸びる方向が水平に近いことから、自重によるモ-メントが大きくなるので、自重が枝の力学状態にもたらす影響は縦枝よりもかなり大きいと考えられる。この様な横枝において枝の形態形成の規範を明らかにするには、どのような力学状態に置かれているのかを確かめる必要がある。
本研究では、横枝の形態にかかる力学的制約として、枝の破壊に対する強度を考えた。自重により生じる枝内部の引張応力と強度との比がどのような値をとるかによって、枝の安全性は変わりうる。(枝の安全率)=(引張応力)/(強度)として、広葉樹(ブナ)と針葉樹(ウラジロモミ)の野外の枝における安全率の値を測定した。その結果、ブナでは、直径が1cm前後の小さい所で安全率は大きかったが、それより直径が大きい所では一定の値をとった。ウラジロモミでは直径の変遷に対し安全率は横ばいであった。一定の値をとったときの安全率は4-10の範囲に収まった。このことから、破壊に対する強度が枝の形態形成を強く制限していることが示唆された。
以上の結果は、安全率がどの部分を見ても安定した値をとるように横枝が設計されているということを示唆する。安全率を一定にするような枝づくりはダヴィンチ則(分枝前後の枝の総断面積は一定)との矛盾を生む。本研究ではこれに関する力学的解析も行い、実際の枝が厳密にはダヴィンチ則に従っていないことを示す。