ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-068
*中村元香, 野口航, 寺島一郎(東大・理)
低酸素土壌(湛水土壌)に生育する水生植物は、シュ-トを介した大気から根への酸素供給により根の呼吸を維持している。しかし、シュ-トに依存した根への酸素供給は、シュ-ト周りの環境変化による影響を受けやすい。また根においても、成長段階や活性の違いにより根の酸素消費量が変動するため、水生植物は低酸素土壌下で常に高い酸素アベイラビリティを維持できる訳ではなく、生育には酸素が律速要因となっている。そのため、水生植物にとって、根の呼吸による酸素消費あたりのエネルギ-(ATP)生産効率を高めることは、低酸素土壌での生育に重要と考えられる。しかし一方で、植物は必ずしも最大効率でATPを生産しておらず、ミトコンドリア電子伝達鎖では、ATP共役経路であるシトクロム経路の他に、ATP非共役経路(オルタ-ナティブ経路)が存在し、この経路を介した電子伝達により酸素消費あたりのATP生産効率が低下する。このATP非共役経路に関わるAOX、NDタンパク質は、低酸素等のストレス環境下でミトコンドリア膜が過分極した際に、電子伝達鎖の過還元状態を回避するのに役立つ。従って、水生植物は低酸素ストレス下で効率的にATPを生産するために、ATP共役経路とATP非共役経路の活性を調節し、また酸素アベイラビリティの変化に応じてこれらの経路の活性を変動させることにより、低酸素土壌に適応していると考えられる。
本研究では、代表的な水生植物のヨシを用いて、低酸素環境と高酸素環境で水耕栽培を行い、成長や根呼吸速度、AOXタンパク質の発現量を比較した。さらに、各条件で栽培した個体の根組織からミトコンドリアを単離し、ミトコンドリア膜タンパク質(COX、AOX、ND)の最大活性やシトクロム経路の最大活性、またTCA回路関連酵素活性を測定した。これらの結果から、水生植物の低酸素ストレスに対する呼吸系の応答について考察した。