ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-072
*井上 晃,田中 孝尚,黒川 紘子,彦坂 幸毅,中静 透(東北大 院 生命)
現在進行している地球温暖化により、湿原群集の種構成は大きく変化すると予測されている。
群集の種構成を決定する要因には、気温、光獲得競争、養分獲得競争など様々なものがある。中でも湿原土壌は貧栄養であり、窒素をはじめとする養分利用における制約がきわめて大きい環境である。その為、土壌環境や温度傾度に沿った湿原植物の養分利用様式の解明は、将来の環境変動に対する群集構造変化を予測する上できわめて重要であるが、実際の生育環境間における養分利用様式の違いを調べた研究は少ない。
そこで本研究では、青森県八甲田山周辺の多くの湿原において優占するヌマガヤの窒素生産効率、すなわち窒素あたりの重量と、葉窒素、リンの再吸収率に着目した。一般に植物が落葉する際、葉内の窒素の一部は貯蔵組織に引き戻される(Yasumura2002)。窒素生産効率、再吸収率と土壌環境、気温とそれに関係する積雪期間との関係を明らかにすることで、ヌマガヤの土壌環境、気候変動に対する適応様式の解明を目的とした。
調査は青森県八甲田山周辺の標高570-1280mに点在する25湿原で行った。各調査地点の8月の平均気温の幅は18.7-21.5℃であり、土壌pH、土壌の栄養塩濃度の指標である電気伝導度の幅はそれぞれ3.2-7.4、50-410μs/cmであった。各調査地点において2010年9月に生葉を、同10-11月にフレッシュリタ-を採取し、窒素、リン濃度を測定した。
ヌマガヤが土壌環境に適応して資源利用様式を変えているならば、利用可能な窒素、リンが少ない低pH、電気伝導度の環境において限られた資源を有効に利用するため、高い再吸収率を示すと考えられる。また、積雪期間が長い高標高域では、限られた日数で効率的に光合成を行うため、高い窒素生産効率を示すと考えられる。本発表では、そうした傾向がみられたかどうかについて考察する。