ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-078
*今井一輝(三重大学・生物資源学部),松尾奈緒子(三重大学・三重大学生物資源学研究科),今田省吾,山中典和(鳥取大学乾燥地研究センタ-)
乾燥地では土壌塩類集積による植生の劣化が問題となっている.よって,高い耐塩性を持つ塩生植物を用いた緑化が期待されており,植物の耐塩性の簡易な評価手法の開発が求められている.中央アジアにおける先行研究により,耐塩性の高いTamarix hispidaなどの塩生植物では長期的な気孔コンダクタンスを反映する葉の有機物中の酸素安定同位体比が高く,土壌塩分濃度の上昇に伴って,長期的な水利用効率を反映する葉の有機物中の炭素安定同位体比が上昇することが報告されたがその理由については明らかでない。そこで,本研究では環境制御下で育てたTamarix ramosissimのポット苗を用いて塩水付加実験を行い,長期的な塩分ストレスが葉の炭素・酸素安定同位体比に及ぼす影響を明らかにする.
2009年6月30日から2010年8月23日までの約400日間,NaCl濃度が0,200,400mmol/Lの水をそれぞれ7ポットに与えた.処理開始6日前と35,162,303,365,402日後に葉サンプルを採取し,乾燥・粉砕後,安定同位体比質量分析計を用いて炭素・酸素安定同位体比を測定した.
その結果,処理開始6日前に測定した葉の有機物中の炭素安定同位体比は処理間で差が見られなかったが,処理後は400mMで最も高く,200mM,0mMの順に低い値であった.よって,塩分ストレスの増加に伴い水利用効率が上昇することが示された.一方,個葉の蒸発散速度は処理間で差が見られたが,有機物中の酸素安定同位体比には処理間で差が見られなかった.よって,葉の酸素安定同位体比は蒸散の際の同位体分別以外の要因の影響を受けている可能性が示唆された.