ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-091
*吉田剛司(酪農学園大),小荒井衛(国土地理院),玉田克己(道総研環境科学研究センタ-),田澤道広(知床財団)
知床岬の海岸台地上に広がる草原は、過去には風衛地の高山植物群落が優占していた。しかし海からの強風により冬季の積雪が少ないためエゾシカが集中し、さらに強度な採食圧によって自然植生は壊滅的な影響を受けた。現在では、知床岬にはエゾシカの不嗜好性植物であるハンゴンソウやアメリカオニアザミが繁茂することとなり、草原の自然景観は大きく改変された。直接的な影響としてエゾシカによる植生改変が顕著であるが、一方でエゾシカの個体数増加が間接的に他の生物相へ与える影響も危惧されている。そこで本研究では、知床岬における植生改変を景観レベルで捉えたうえで、エゾシカによる植生被害が少なかった30年前と現在の鳥類層の変化について追究した。
原生的自然環境としての知床半島における景観変化を把握するため、過去(1978年)の植生区分図をGISポリゴンデ-タとして作成し、現在の植生区分との比較を実施した。また景観変化が鳥類に及ばす影響を把握するために、2009年6月8日-10日及び2010年6月11日-13日に知床岬において、ラインセンサス法とスポットセンサス法による鳥類モニタリング調査を実施した。ラインセンサスでは、草原と森林の2ル-トを設定し、ル-ト上に10のスポットセンサス用の定点も設置した。さらにエゾシカ採食の被害が著しい草原域において、草原環境を好む鳥種のみを抽出し、その生息密度を同じコ-スにおける過去の調査結果(中川, 1981)と比較した。この結果、種構成に大きな変化は確認できなかったが、種によって生息密度に影響がでていることが判明した。なお本研究では、11目27科63種の鳥類が確認された。