ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-094
*小林誠,伊藤千恵,永野昌博(十日町市立里山科学館キョロロ)
本州中部の日本海側多雪地は、ほぼ同緯度の太平洋側と比較しブナ林の分布標高が大変低いことが指摘されている。新潟県十日町市地域では、標高200m前後の低標高の丘陵地からブナ林が成立し、人間の生活圏と接し古くから里山の林として利用されてきた。そのため、棚田などの耕作地・スギ人工林・広葉樹二次林・民家といった様々な景観要素の中に、多くの小・分集団化したブナ林が成立している。
比較的小面積の景観要素が分布する里山特有の景観構造において、景観要素のモザイク性は生物多様性の維持に貢献する正の側面がある。一方、生育地の分断化・遺伝子流動の制限といった側面からの生態的影響については、十分に検討されていない。当館では、当地域のブナ林保全の基礎デ-タとして、市民協働で市内のブナ林マップの作製を進めており、市内のブナ林の位置・面積などの情報が蓄積されている。2009年の種子の並作年に市内22か所の集団サイズの異なるブナ林から落下種子・殻斗を採取し、乾燥後ランダムに選んだ種子・殻斗の重量・形態などを測定し、里山におけるブナ林の小・分集団化が種子・殻斗形質に与える影響について検討した。
その結果、各集団の平均種子重量は最小0.102g、最大0.208g、平均殻斗重量は最小0.376g、最大0.659gと集団間に大きな差がみられた。また、これら各集団の平均種子重量・平均殻斗重量とブナ林の面積には正の相関があり、約4000m2を境に種子・殻斗重量は大きく低下した。さらに、種子・殻斗形態の変異は集団サイズが大きいほど高い傾向がみられた。
以上の結果から、里山地域におけるブナ林の集団サイズの違いは、ブナの種子・殻斗サイズやその形態の変異に影響を及ぼすことが示唆された。これらの知見は、ブナ林の保全面積の基準や植樹のための種子採取地の選出など、当地域におけるブナ林保全のための基礎デ-タとして応用が可能と考えられる。