ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-108
小林真生子 *,沖津 進 (千葉大院・園)
後期中新世は日本から絶滅した種とともに、現在も日本に分布する種が多く見つかる時代である。この時代に植物種がどのような場所に生育していたのかを明らかにすることは、日本の植生の成り立ちを考えるうえで重要である。そこで本研究では埼玉県深谷市の楊井層(約12Ma-9Ma)の種実化石を分析し、植物化石の堆積環境と現生種の生育環境から、後期中新世の古植生を復元した。多量のメタセコイア化石とスイショウやProserpinaca属(アリノトウグサ科)の化石がシルト質の堆積物から産出した。そのため、化石堆積地近くの低地にはメタセコイアが優占する林が分布し、スイショウやProserpinaca属はメタセコイア林内の沼沢地など、メタセコイアよりも水分条件の良い場所に生育していたと考えられる。また、メタセコイアとともに産出したコウヨウザンやヒサカキ、アワブキ属、イヌシデ、ヒメシャラ等はメタセコイアが優占する低湿地の周辺の針広混交林に生育していたと考えられる。ブナ属やフサザクラの種実化石は砂質の堆積物から多く産出した。そのため、針広混交林よりも標高の高い斜面にはブナ属が優占する林が広がり、谷間など斜面の中でも水分条件が良く地滑りが起きやすい場所などにはフサザクラが分布していたと考えられる。メタセコイアやスイショウ、コウヨウザン、Proserpinaca属など日本から絶滅した種の多くは、後期中新世には低湿地林や斜面下部の林など標高の低い所に生育していた。一方、日本のブナ帯で現在普通に見られるイヌシデやブナ属、フサザクラなどは絶滅種よりも標高の高いところに生育していた。低地は海水面の変化や山間部からの土砂の供給などの環境の変動が大きく、植物種が長期にわたって生育することは難しい環境であったが、斜面上部は地滑りなどの環境変動はあるものの、斜面下部や低地よりも安定した環境であり、植物種が現在まで生育できた可能性が示唆された。