ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-118
*楠目晴花, 市野隆雄(信州大・理・生物)
サラシナショウマは種内において,個体サイズ・生育地の光環境や標高・花期・花粉媒介者・花の香りといった生態的特徴の違いから3つのタイプに分けられる(Pellmyr 1986).TypeIは1300m以上の高標高のやや暗い環境に分布する大型のタイプで,マルハナバチ類を花粉媒介者とする.TypeIIは950m以下の中標高の明るい環境に分布する大型のタイプで,甘く強い香りを放つことでチョウ類を引き寄せ花粉媒介者として利用する.TypeIIIはTypeIIと同じもしくはそれ以下の低標高の暗い環境に分布する小型のタイプで,マルハナバチ類を花粉媒介者とする(Pellmyr 1986;栃木県日光での結果).しかし,これら3タイプの遺伝的な位置づけは明らかになっていない.
本研究では長野県の乗鞍・上高地山系と美ヶ原山系において3タイプの分布調査,形態形質サイズの比較,染色体数の比較を行いタイプ間の生態的な分化の実態を示すとともに,系統解析から遺伝的な分化の実態を示す.
分布調査からTypeIは亜高山帯に,TypeIIとIIIは山地帯に分布し,その境界付近では3タイプすべてが同所的に生育する場所があることがわかった.また形態形質サイズ調査から3タイプを形態から区別できることがわかった.染色体数は全てのタイプで2n=16であり倍数性や異数性は確認されなかった.最後に,核DNAのITS領域を用いた分子系統解析からは,TypeIIが独立の系統であること,またTypeIとTypeIIIの間には系統的な差異は認められないことが明らかになった.他のタイプと同所的に共存するにもかかわらずTypeIIが独立の系統となったことは,種内タイプ間での生殖隔離の存在を示唆する.また2つの山系からのサンプルが,山系ごとではなくタイプごとに単系統群を構成したことから,各タイプが山系ごとに独立に分化(平行種分化)したのではないことが示唆される.