ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-122
*田畑諒一,富永浩史,柿岡諒,小宮竹史(京大院・理),向井貴彦(岐阜大),高橋洋(水大校),張廖年鴻,渡辺勝敏(京大院・理)
生物の分布を決定する原理や過程を解明することは,生物多様性の創出・維持機構を明らかにするために必須であり,系統地理はそのアプロ-チの一つである.純淡水魚類は,その限定的な移動能力などから,地域生物相の形成過程や歴史的な要因を推察する上で重要な役割を果たす.西日本には多くの淡水魚が生息しており,その系統地理情報を比較することは,複雑な分布域形成パタ-ンを解明し,生物相全体の成立プロセスを解明する足掛かりとなり得る.
本研究では西日本(静岡西部から九州北部)に生息する十数種について,mtDNAに基づく系統地理解析を行った.分子系統樹解析とともに,集団構造の形成プロセスや人口学的な歴史を調べるために,階層クレ-ド分析やミスマッチ分布分析を行った.その結果,各魚種における地域集団の分化が明らかにされたが,集団構造には種間で違いがみられた.例えば,鈴鹿山脈以東の集団が大きく分化した種(ゼゼラなど)がある一方,九州北部の集団が最も大きく分化した種(カワバタモロコなど)も存在した.地域集団の分化の多くは異所的分断によると推定されたが,分化した系列の二次的接触もみられた.西日本の淡水魚は,種間で類似した分布パタ-ンをとりながらも,集団形成プロセスが異なるものを含み,今後,各種の分断・分布拡大パタ-ンと古地理・生態的な情報を総合的に分析することにより,西日本の複雑で多様性の高い生物相の起源に関する理解が深まると期待される.