ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P3-123
末次健司 *, 加藤真 (京都大 院 人間環境)
菌根共生とは、植物が光合成で得た同化産物を菌根菌に提供し、その見返りに菌根菌は水や無機塩類の吸収や防衛の手助けをするという共生系である。しかしながらラン科では、発芽直後から緑葉を展開するまでの間、すべての養分を菌へ依存する。さらに、ラン科では、成長した個体においても、光合成だけで炭素化合物を賄う系統から、菌へ依存する系統が頻繁に進化している。しかしながら、一生涯に渡る菌寄生性獲得には、多くのラン科植物の共生菌である Rhizoctonia と呼ばれる一群 (いわゆる "ラン菌") からより炭素の供給源として優れている外生菌根菌への共生菌の転換が必要とされてきた。このラン科における菌従属性獲得には共生菌の変換が必要であるという仮説を検証するため、本研究では、相利共生的に振舞うことが証明されている系統に属するラン科植物のアルビノ個体の葉緑体量、光合成活性を計測し、共生菌を分子同定した。その結果、アルビノ個体には、葉緑素がほとんど含まれておらず、光合成活性も失われていることが明らかとなり、菌から得た養分のみで生育していると示唆された。その一方、アルビノ個体の共生菌は、通常の緑葉をもつ個体と同じく、 "ラン菌" を共生菌として利用していることが明らかになった。以上の結果から、ラン科における菌従属栄養性の獲得に、ラン菌から他の菌への共生菌の転換は必須でないと考えられる。